どのような時に人口蛹室を利用するのか
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幼虫が、菌糸ボトル内でサナギになるために作った蛹室(ようしつ)に
以下のような状態がみられる場合、人口蛹室に移すという選択肢が取られます
- 蛹室内にきのこが生えてきた
- 菌糸ボトルの底に蛹室が作られた
1の場合、サナギがきのこに圧迫される、あるいはきのこがジャマとなって正常に羽化できない恐れがあります
ちなみに、以下に示す『露天掘り』という手法もあります
蛹室の形が崩れないよう菌糸ボトルを掘り、蛹室内のきのこ等を除去した後サナギを蛹室に戻し
菌糸ボトルが乾燥しないよう、濡れたティッシュペーパー等を上にかける
2の場合、蛹室内の水分がボトルの底にたまり、あるいはボトルの底の凹凸等が原因で正常に羽化できない恐れがあります
こちらも人口蛹室を利用せず、菌糸ボトルを上下ひっくり返し、サナギの頭が高くなるよう、ボトルの下に割りばし等のスペーサーを敷くという手法も取れます
上記の1、2以外でも、蛹室内にカビ類の発生が見られる場合や
特に体長の大きい(長い)オスで、側面に見えている蛹室の範囲が広い場合も、私は人口蛹室に移動させています
80mm以上の♂の場合、側面に見える蛹室の範囲が広いと蛹室の長さが不足していることがあるんです(1400ccのボトルにおいて)
サナギや、後述する前蛹(ぜんよう)共に、成虫やサナギの体を形成する非常に繊細な状態のため
できる限り触れないようにした方が良いと思いますので
どうしても触れなければならない際の、最終手段として人口蛹室を利用するのが良いと思います
そんなことを言いながら、完品で羽化できるか心配で、色々な理由をつけては最終的に多くを掘り出してしまいます(皆さんはマネしないで下さいね!)
人口蛹室の形状
正常な羽化ができない恐れがある場合に、人口蛹室への移動を選択しますが
そのためには当然、正常な羽化ができるような人口蛹室を準備する必要があります
正常な羽化ができる蛹室の形状の主なポイントは以下になります
- 横幅:あまり広げすぎない(最大の箇所でもサナギの横幅+2cm位)
- 縦の長さ:想定される成虫サイズより少なくとも2cm位は長めにする
- 深さ:容器のふたから最低でも4cmのスペースを確保する(羽化時にサナギが頭を持ち上げられるよう)
※国産オオクワガタのオスを想定
横幅について、羽化後の成虫は体の各箇所を乾かすために、頻繁に体勢を変えます(横向き、仰向け、うつ伏せ?)
蛹室の横幅が広すぎると、脚をかける場所がなく、仰向けになった後体制を戻しにくくなり、最悪の場合は、そのまま体力を消耗して★になる場合があります
縦の長さと深さが十分でない場合、羽化時に頭をもち上げる際の妨げになり、お辞儀をしたような状態で体が固まってしまうことがあります
人口蛹室を自分で作る場合、ホームセンター等で販売してある、園芸用の吸水スポンジが加工しやすく、保水力も高いことから推奨されます
上記の形状のポイントを抑え、以下の要領で人口蛹室を作ります
- うつわのサイズに合わせてカッター等で外形を切り出す
- 掘る蛹室(想定する成虫の長さ+2cm程度、横幅は狭めの棒状)の印を入れる(線を描く等)
- 印に合わせてスプーン等で2cm程度の深さまで掘る
- 指の腹で表面を滑らかにしながら、少しずつ掘り(削り)、理想の形に仕上げる
理想の形に仕上げていく際に、蛹室サイズがどんどん大きくなりますので、上記の3では小さめに掘った方が良いと思います
また、掘る穴の深さに傾斜を入れるとより良いのですが(下図参照)、難しい場合はスペーサーを入れて頭側が高くなるようにしてもいいと思います
蛹室の形状以外のポイント
国産オオクワガタは、サナギから成虫になるまでに約1ヵ月の期間を要しますので(24~25℃の場合)
そのあいだに蛹室内が乾燥しないよう、上記の園芸用スポンジを利用するのですが
当然使用する容器もある程度の密閉性を持ったものを使う必要があります
昆虫飼育用の容器として、フタの密閉性がないものを使用する場合
針で数十か所程度穴をあけたビニール等をフタとの間に挟むことで、蛹室内の乾燥を防ぐことができます
また、逆に園芸用スポンジの水分が多すぎてもうまく羽化できない場合がありますので(羽化不全)
スポンジに水分を含ませた後、蛹室内の水分をティッシュペーパー等で十分ふき取ってから、サナギ等を投入されてください
メスに人口蛹室を適用するリスク
上述の人口蛹室に関しては、主に国産オオクワガタのオスを想定した内容ですが
メスへの人口蛹室の適用に関しては、以下の内容から注意が必要のようです
台湾国立交通大学応用化学系の棚橋薫彦博士研究員は、クワガタムシの共生酵母(こうぼ)の研究を実施されており
菌類によって腐朽(ふきゅう)が進んだ腐朽材を食べるオオクワガタやコクワガタの幼虫は、
- 共生微生物(酵母)によってその木材成分を消化していること
- メス成虫の腹部末端にある、菌嚢(きんのう)と呼ばれる器官に共生酵母を保持していること
- 菌嚢の共生酵母は産卵時に卵へ伝えられること
等を報告されています
また、メスは羽化直後のみに、蛹室の内壁に菌嚢をこすりつける行動とっており、その際に共生酵母を菌嚢に取り込んでいるとの考えです
つまり、メスに人口蛹室を適用する場合、消化を助ける共生酵母が親メスから卵に受け継がれない恐れがある
という点に注意が必要である旨を示されています(参照元:「クワガタムシの生物学」、(株)エヌ・ティー・エス発行)
メスに関しては、今後できる限り掘り出さないようにしたいと思います
その他:クワガタの前蛹について
幼虫からサナギになる際(蛹化:ようか)、それらの中間にあたる前蛹(ぜんよう)と呼ばれる状態を経由します(以下参照)
前蛹は、見た目は幼虫のままですが、足や口が機能しない状態となっており、日が進むと人間の腹筋運動のような動きをするようになります
半透明あるいは、透明の菌糸ボトルの側面に蛹室が作られた場合
外部からのちょっとした刺激に対して、上記の腹筋運動や、タイミングが良ければ前蛹からサナギ、あるいはサナギから成虫(羽化:うか)への変態を観察することもできます
蛹室が作られた後、しばらく経つとあまり動かないようになり
24℃~25℃位の温度の場合、それからさらに約1週間から10日ほどの期間を経てサナギへと変態します
前蛹の期間はあまり動きが見られなくなるため、★になったと勘違いして、あるいはそれを確かめるために、菌糸ボトルに激しい衝撃を与えないように気を付けてください
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